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東京高等裁判所 昭和42年(ラ)691号 判決

抗告人 柴崎勝男

右訴訟代理人弁護士 萬谷亀吉

同 美村貞夫

主文

本件抗告を棄却する。

理由

一、抗告人の抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める。」というのであり、その理由は、別紙「抗告の理由」に記載するとおりである。

二、よって右抗告理由について、順次検討する。

(一)抗告人は、本件競売物件中の建物は競売申立当時すでに存在せず、実際に競売された建物は右建物を改造修理したものではなく全然別個のものであると主張する。しかしながら、本件競売物件中の建物は、東京都中央区八重洲四丁目五番二二家屋番号同町五番一三木造前面モルタル塗瓦葺二階建居宅一階三三、四八平方メートル(一〇坪一三)二階二六、〇一平方メートル(七坪八七)であり、登記簿にも同様に記載されているが、記録によればその現状は、木造亜鉛メッキ鋼板葺外装波型鋼板張り二階建事務所一、二階とも三三、〇五平方メートルであることが認められ、前記表示とこの現状とはその構造建坪ともおおむね一致しその間に同一性があると認められるから、抗告人の右主張は理由がない。

(二)抗告人は、本件競売債務者であるサンウエーブ工業株式会社については会社更生手続が開始され、更生計画案の認可決定により、競売申立人である株式会社平和相互銀行の債権については一部免除ならびに弁済の猶予がされたから、物上保証人である抗告人も当然その利益を亨受し得ると主張する。しかしながら、会社更生法第二四〇条第二項によると、右更生「計画は、更生債権者又は更生担保権者が会社の保証人その他会社とともに債務を負担する者に対して有する権利及び会社以外の者が更生債権者又は更生担保権者のために供した担保に影響を及ぼさない」から、抗告人主張のような更生計画案が認可決定されたからといって、本件競売申立人が抗告人に対して有する担保権には何等消長を来たさず、したがって抗告人の右主張も理由がない。

(三)つぎに抗告人は、根抵当権を実行する為には根抵当権の性質上先ず債権の確定を必要とする。しかるに本件競売申立前に抗告人に対して債権確定の通知が為されていないから、本件競売手続は違法であるか、仮に違法でないとしても正当な権利の行使でなく乱用というの外はないと主張する。しかしながら、一般に根抵当権について存続期間の定めがなくまたその基本契約に決算期の定めがない場合、あるいは期間の定めがあってもその到来前に、個々の債務の遅滞を理由として基本契約を解除し被担保債権額を確定させることなくして根抵当権を実行することができるかどうかの問題はしばらくおいて、本件記録によれば、本件根抵当権には存続期間の定めはないが、債務者が債務の全部または一部の履行を遅滞したときは期限または分割の利益を失い且つ本存続期間満了とみなされ直ちに抵当権を実行しても意議がない旨の特約があること、および競売債権者は右特約によって物上保証人である抗告人に対して競売申立前に債務者振出の約束手形五通合計金額二、五〇〇万円およびこれに対する金一〇〇円につき一日金四銭の割合による遅延損害金について根抵当権を実行する旨内容証明郵便をもって通知した事実を認められるから、抗告人の右主張もまた理由がない。

三、その他記録を精査しても原決定を取り消すべき違法事由を認めることはできない。〈以下省略〉。

(裁判長裁判官 長谷部茂吉 裁判官 鈴木信次郎 岡田辰雄)

〈以下省略〉

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